
シェンゲン圏は、EU加盟国22カ国とEU非加盟国4カ国(アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、スイス)から構成されており、これらの国の間をビザなしで渡航することができます。2026年からは、これまでビザが免除されていた国の人がシェンゲン圏内の国に渡航するためには、ETIAS渡航認証の電子申請を行うことが必要になります。
この新しいヨーロッパの渡航・情報認証システムでは、短期滞在を目的としてヨーロッパに入域する前に、旅行者が自身の情報を事前登録することが必要になり、安全上の脅威や危険な人物を事前に特定できるようになります。ETIAS渡航認証の導入は、シェンゲン圏の外側の境界線を強化することを主な目的としています。また、シェンゲン圏はSIS・VIS・EURODACという3つの保安メカニズムによってさらに保護されています。
シェンゲン圏の保安システムとは?
シェンゲン圏の3つの保安システムは、「自由・安全・公正領域の大規模ITシステム運用管理のための欧州機関(eu-LISA)」によって管理されています。
eu-LISAは、シェンゲン圏内の安全の維持や参加国間のビザ情報の交換を担うシステムを管理しており、ETIAS渡航認証が導入されれば、その管理も担当します。
ETIASやシェンゲン圏は参加国の間の自由な移動を許可するものですが、外部との境界線は引き続き懸念材料です。SIS・VIS・EURODACという3つのシェンゲン圏保安システムは、ETIAS渡航認証と連携して、そのリスクを最小限に抑えます。
ETIASのオンライン申請を完了するには、旅行者は健康や安全に関する質問に回答する必要があると同時に、個人情報やパスポートの情報を提供する必要があり、これらの情報はSIS・VIS・EURODACでの事前スクリーニングにかけられ、公共の安全リスクの特定に使用されます。
シェンゲン情報システム(SIS)
シェンゲン情報システム(SIS)は、シェンゲン圏内の安全を維持することを目的としたサポートメカニズムです。
SISの主な機能は、以下の通りです。
- 国境管理における連携を可能にする
- 法執行における連携を可能にする
- 車両登録における連携を増加させる
SISがあることによって、犯罪の容疑者、許可なくシェンゲン圏に入った可能性のある旅行者、行方不明者、盗難・紛失・横領の対象となった資産などに関して、参加国が情報を共有することができます。
シェンゲン渡航認証が導入されると、ETIAS申請者のデータは、渡航が許可される前に、この保安システムで照合されることになります。
ビザ情報システム(VIS)
シェンゲン・ビザ情報システム(VIS)は、短期滞在ビザ申請の情報を参加国やEU非加盟国の領事館と共有できるようにするシェンゲン圏の保安システムで、共有するEUビザ政策を支えています。
SISでは、生体認証データを使って、シェンゲン・ビザ保有者の本人確認を行うことで、より効率的な国境管理を可能にし、ETIAS渡航認証が導入された後は、それを支える重要なシステムの1つとなります。
VISの主な機能は、以下の通りです。
- 悪用対策:VISは「ビザ・ショッピング」のような不法行為を取り締まります。ビザ・ショッピングとは、シェンゲン圏内のある国への入国を拒否された申請者が、別の国から圏内に入ることです。
- 旅行者の保護:VISがあることで、シェンゲン圏内に入ることを目的としたなりすまし行為を公務員が簡単に特定することができます。
- 亡命申請のサポート:VISが亡命申請を精査することで、どのEU加盟国がそれぞれの申請を処理するのかを決めやすくします。
- 安全の向上:VISは、テロ攻撃やその他の重大な犯罪行為に対して、その予防・発見・操作を支援しています。
SISでは、ビザ申請者の指紋のスキャンやデジタル写真を含め、旅行者のデータを中央のデータベースへと集約しています。シェンゲン圏に頻繁に渡航する人の場合には、新しいシェンゲン・ビザを申請する時に毎回指紋をスキャンする必要はありません。
ヨーロッパ指紋データベース(EURODAC)
EURODACは、シェンゲン圏の保安システムにおけるもう1つの重要な構成要素で、亡命希望者やシェンゲン圏やEUの国境を不法に超えた人を特定するための指紋データベースです。
このメカニズムは、指紋データセットを比較することで機能するもので、EUのどこで亡命申請しても、毎回申請者の指紋がすぐに認識できるようにします。EURODACは、どのEU加盟国がその申請を精査するのかを決めるために、指紋の比較によって難民申請を精査します。
3つのシステムが連携することで、シェンゲン圏の保安システムが構築され、この地域の外側の境界線を守っています。ETIASが導入されたら、これらのシステムが渡航認証とも連携し、ヨーロッパの安全リスクをさらに削減することになるでしょう。